堺市立三国丘中学校

今日の一言 1月17日 こころに刻む日

公開日
2024/01/17
更新日
2024/01/18

校長雑感 一隅を照らす

20年ほど前、デュッセルドルフに勤務していた頃、日本から転勤してきた女性スタッフがいました。私は小さなオフィスのマネージャーで、仕事から生活面のケアまで私の仕事でした。

日本でしか生活をしたことが無いスタッフがドイツ生活に困らないよう、現地で永く暮らしている私のような者は、住宅の用意もしたものです。

入居初日。
ドイツの住宅のあれこれ・・・
契約書の内容から、設備について、鍵の開け閉め、ゴミ捨てまで。丁寧に説明していきます。

部屋の窓からは外の様子がよく窺えました。この地方独特のどんよりとした曇り空、デュッセルドルフの街並み、隣接する小学校。

少しだけ遠い目をしているような彼女の表情が気になりました。ドイツと日本との違いを説明していくうちに、彼女のふるさとの話しになりました。

ふるさとは「神戸」。あの震災を経験していたのです。

・・・

「こんなに素晴らしい環境で仕事ができるんですね。何だか申し訳ないな・・」

私は、意味がつかめず黙っていると、

「だって私は、幸せになってはいけないんです」

学校から子どもたちの声が、遠くかすかに聞こえてきます。
彼女は続けました。

「私の姉と祖母は、私の目の前で燃える家の下敷きになって・・・」
 ことばは途中で消えていきました。

・・・

幸せになってはいけない・・・
なんてつらい想いなんだろう・・・

そう思いながら、言葉が出てしまいました。

「幸せになろうよ!」

何も言ってはいけなかったのかも知れません。
今から考えると、よくあんなことが言えたなとも。

・・・

それから、10数年後に大阪で再会しました。
お酒の好きだった彼女が「今日は禁酒ですッ」とニコッとしました。結婚して子どもができたのです。

彼女は「幸せ」なっていました。

・・・

どれほどの想いを乗り越えたのか想像もできません。

ただ、1月17日が来るたびに、十数年前、曇り空のデュッセルドルフ。
薄暗い部屋で「幸せになってはいけない」と言った、あの時の顔と数年前、晴れ渡った大阪の街で見せた幸せな笑顔を思いだします。

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