今日の一言 6月11日 あがる(緊張すること)
- 公開日
- 2025/06/11
- 更新日
- 2025/06/11
校長雑感 一隅を照らす
写真:中学校で初めての期末テストを終えて
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「第九! 何百回、演奏したかわからない。
それでも、緊張して、手が震える。
それどころか、年齢を重ねるほど、音を出すのが怖くなる・・・
体に染み込むほど練習し演奏して来た曲なのに、
入りが怖くて、休みの小節を一生懸命に数えてる!!」
日本でトップのオーケストラの団員で、ティンパニー奏者としても日本で頂点に立っていた人でした。定年退職間近の頃にそう言っていたそうです。
・・・
昨晩、40年近くプロの打楽器奏者として活躍している友人と会いました。
このティンパニー奏者のはなしは彼から聞きました。
彼自身も同じように緊張するし「あがる」そうです。
「本番で手が震える。ここ20年ぐらいそうなんだ」
「ボレロのスネアで手が震えたら最悪だよ」
ラベル作曲の「ボレロ」の冒頭は、スネアドラム(小太鼓)が
「タン・タカタタン・タカタタン・タン・タン
タカタタン・タカタ タカタ タカタ」
というリズムを、ソロで、しかもピアニシモで演奏します。
そして、全曲を通してずっとこのリズムをたたき続けます。
この曲で、スターになるのは、打楽器奏者です。
だからこそ、手が震えるのです。
彼はこう付け加えました。
「プロは、誰でもわかるような間違いは絶対にしてはダメだからね」
・・・
カラヤンが率いるベルリン・フィルは、昔から名手ぞろいで有名でした。
オーボエ界では、今でもレジェンドの「ローター コッホ」という演奏家もベルリン・フィルの団員でした。
ある日、日本のオーケストラでモーツアルトのオーボエ協奏曲を演奏することになりました。彼は、もう何度となく演奏した曲です。名手中の名手です。そんな彼が、これから本番という直前までステージの袖で、2楽章のあるフレーズを何度も何度も練習していたそうです。レの音から1オクターブ上のレの音にレガートで跳躍するパッセージです。吹いても吹いても、「ダメだ」と言うように、首を振り、更に繰り返し何度も何度も練習を続けるのだそうです。顔色はだんだん青白くなり、手も震えています。見るからに緊張していることが見てとれたそうです。
・・・そして、本番!
それはそれは素晴らしい演奏だったそうです。
特に、レからオクターブ上のレに跳躍する件の個所は、
この世のものとは思えないほど美しかったそうです。
・・
私が学生時代、先生(元NHK交響楽団団員)に仕事をもらって、先生といっしょに演奏会に出たことがありました。いよいよ本番というとき、弟子の私はずいぶん緊張して見えたのでしょう。薄暗いステージ袖で「名人だって、あがるんだがら、お前があがって当たり前!」とはなしてくださったのが、この話でした。
***
だれでも、あがる・緊張する。
「それで、いいんだよ」
中学生のこどもたちには、誰かの前で発表したり、
今日の定期試験のように自分を試されるような機会がたくさんあります。
さぞ緊張することでしょう。
大人になればなるほど、緊張が増すことがあります。
緊張しなくなると、もうそれで、成長がなくたったということ、緊張していいんだという人もいます。
とにかく、こどもたちには、いろいろな経験、いろいろな想いを味わって、強くたくましくなってほしいと願っています。